夕焼けネマ


 寮へと続く廊下を歩いていたら女生徒に囲まれている亮と出くわした。
 購買に寄っていたせいでいつもよりも遅く通った廊下の窓にはすでに夕焼けの陽が差し込んできていて、赤く染まった空をバックにして逆光の中で女生徒達の中心に立つ彼はさすが帝王というだけある、とても様になっていた。
 この廊下から夕焼けを見るのはこれが初めてじゃないし、この廊下で彼に出くわすこともよくあることだ。それでも、こんなにも彼の纏う空気が美しく、そして近寄りがたく感じることは滅多にない。
 亮に近付けない、こんなことデュエル中の彼以外で今までにあっただろうか。
 気づけば僕は足を止めていた。廊下の向こうに彼の姿を見つけたその瞬間から、思えば一歩も進めていない。近寄りがたいというのは語弊があるかもしれないが、僕は僕の美意識から今これ以上近寄ってはいけないと通達を受けた。夕暮れの学園の廊下、誰からも羨望のまなざしを向けられる亮がまさにその光景の中にいて、そして、口元には小さな笑みを浮かべている。それはまさしく僕が思い描いていた彼の理想の姿で、僕はしばらくその光景に見惚れていた。
 やがて亮のほうが僕に気付き視線をこちらへ寄こしてから、僕はようやく歩みを再開して彼に近づいた。彼を取り巻いていた女生徒達の数人が僕のほうにも同じ目を向けて歩み寄ってきて、僕は何となく微妙な気持ちになりながらも顔には出さず一人一人に笑顔で応える。亮はそんな僕を見て相変わらずだ、なんて思っただろうか。
 僕たちは自然な流れで並んで歩いていく。それは僕たちのいつも通りで、もうすぐ沈みきってしまいそうな太陽はまだ僕たちを照らしていた。女生徒達も散って行き、寮が近付くにつれて僕たちは二人きりだ。
「どうした?」
 ふと、亮が口を開く。
「ん、なにが?」
 窓側を歩く亮を見やると、また彼は逆光の中にいる。けれど今の僕たちの距離は近すぎて、僕たちを取り巻く光景は果たしてどんなものなのか想像がつかなかった。
「今日はやけに無口だな」
「君のほうこそ、今日は妙に機嫌が良いみたいだね。女の子たちからたくさんの愛でも貰ったのかい?」
 いつも通りの僕を装って揶揄するように言ってみれば、返ってきた答えはまさかの「ああ」という肯定で、僕は内心面喰った。
「カードを貰ったんだ。今日から購買で新しく売られているというパックの」
 ああ、なんだそういうことか。笑みを浮かべつつカードホルダーからその貰ったカードを取り出して見せてくれる。なるほど、さっき僕が購買で見ていたまさにそのパックのものだ。さっき、僕が余分に買ったものと、同じ。
「なるほど、普段女の子に囲まれたって興味無さそうにしている君が珍しく楽しそうにしてると思ったら」
 この、デュエルバカめ。僕はこっそり心の中で毒づいた。
「なんだ、妬いていたのか?」
 僕は思わず歩みを止めた。数歩先に歩いた亮も歩みを止めて僕に振り返る。
「図星か」
 にやり、とでも表現したらいいだろうか。先ほど彼を囲んでいた女子達はおそらく想像もしないような意地の悪い笑みを浮かべる。僕はこういう彼を何度か見ているが、そのたびに憎らしいなぁ、と思う。
 別に、女の子に囲まれていることにむっとしたわけじゃない。
 そう言い返そうとして、それはつまり彼の言葉を肯定していることになる、と気付いてとっさに飲み込んだ。もう誤魔化しようがないと分かってはいるけれど、何となく悔しいので僕は早足に彼を追い越してやった。今の僕の表情を彼に見られてたまるか。
「吹雪」
 意地悪な、でも甘いような、少し低めの声がいたずらに耳を撫ぜる。本当に、彼はたまにこういうことをわかっていてするからたちが悪い。亮は僕の弱いところを知っている。
 別に、女の子たちに妬いたわけでも、女の子たちにモテる彼に妬いたわけでもない。ただ、ただ僕が見惚れるほどのあの美しい光景の中にいたのが僕じゃなかったことが、何となく悔しかっただけで。
「お前に渡したいものがあるんだ。さっき貰ったやつじゃない、俺もお前に渡そうと思ってカードを買ってたんだ」
 本当に、たちが悪い。
 太陽はもうほとんどその姿を海へと隠していて今にも完全に沈んでしまいそうなのに、その色彩はいまだに空を赤く染めている。僕の頬も今同じような色をしているのだろうか。
「あとで、君の部屋に行くよ」
 僕は観念して振り向かずにそう伝えると、途端に気恥ずかしくなってきて、彼の顔を見れないまま寮へ向かって駆けだした。







GX放送終了1周年記念に原点に立ち返ってみよう的な感じで亮吹です。
カイザーは鈍感でも鋭くもいてほしい。吹雪さんは余裕でも不安でもいてほしい。そんな感じ。
なんかこの二人は青春の学園生活!って感じでいてほしいなぁ。
若気の至り的な感じで夜も青春しちゃえばイイジャナイ(゜∀゜)




















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