蜘蛛女の



真逆なのだ、何もかもが。

君と違ってボクはわがままでうるさくてきっと誰からも疎まれる欠陥品。
真面目な君のことだから表面上ボクに折を合わせてるけれど、実際はこんなボクのコトを邪魔に思っているはずだ。
当然だ。
ボクと君とは何もかもが違い過ぎて、僕には君に近づくことも真似をすることだってできやしない。
所詮はすむ世界が違うのだろう。


ねぇ、それなのに。
どうして君はそんな風に笑いかけたりするの。



「触らないで」
ぱしんと響いた音はボクの鼓膜に突き刺さる。
驚いたような君の表情に、ボクのこころが痛み出す。
「どうして?」
ボクの台詞なんだ、それは。
どうしてボクなんかに構うの。
どうしてボクは痛みを感じるの。
どうして。
ねぇ、ボクが君のコトをどう思ってるのか知ってるの?
そんな風に困ったように微笑んだりしないで。
「仲間だろう?」
ズクリ、どこかに広がる鈍痛。
ボクはその目を睨み付けて笑った。
「好きなの」
呆気に取られたような君の顔なんて見たくなくて、ボクは思わず下を向いた。
どうせ君はこんなボクと一緒にいるような人じゃない。今更じゃないか、ずっと解っていた事じゃないか。予想はしていたはずなのに。
想いを掻き消そうとひたすら床を見つめていた。顔を見たら何を言い出すか分からない。
君はバカじゃない、ボクがこんな風に座り込んだまま動かないから、どんな意味かなんてすぐにわかったのだろう。
いっそ鈍くて冗談だろうなんて笑ってくれていたらもしかしたら少しは救われたのかもしれない。
それでも、ボクはこんな彼が好きなのだ。こんな状況の中動かずに何もいわずに沈黙だけを受け入れるような、こんな堅物が。
ボクの言葉に嘘はない。
だから君にどんなことを言われても、ボクは受け入れるつもりだった。

長いこと下を向いていた。
そんなボクの体がわずかに震えていたと知ったのは、君の手が肩に触れたからだ。
ボクははじかれたように顔を上げた。
笑っていない、けれど無表情じゃない。穏やかなかおで、君は静かにボクの隣に腰を下ろした。
その瞳があまりにも真っ直ぐで、ボクは気まずくなって顔を逸らした。逆の方向を向く。
「触れても?」
ボクが断れないのを分かっているくせに、どこまでも生真面目で。
もう既にその指先は肩に触れているくせに。布を通してその体温が皮膚を痺れさせているのに。
肩から手が離されて、そしてひやりとそこが泣く。君の手が暖かかったのだと初めて知った喪失感。
「葵」
低音がこころを狂わせるようにぞくりと響いた。
そして気づけばボクは逃れられないようになっている。
ゆっくりと、そしてしっかりと、ボクは抱きしめられていた。
背中全体で君を感じる。首筋に君の吐息が掛かる。上半身があたたかい。
涙が出てきた。
「愛してる」
答えられない。分からない。目が開けられない。
ただ首筋に耳元に感じる微温に神経が集中する。
あおい、と響く声が、ボクを狂わせる。
だめだ、ボクは。こころのどこかが警鐘を鳴らした。キィンと響く。
思わず、体に回された腕を振り解いてわずかに距離をとって振り向いた。驚いたような君の顔。

「やめてよ」
泣きたい。
こんなことを言うつもりじゃないのに口元は言うことを聞かない。まるでボクでないみたいに。
「ボクを愛してるって?本気で言ってるの?」
気まぐれはよして。そう続けようとして、
「そうだ」
阻まれた。
心臓が凍りついたように一瞬動きを止めて、そして氷が溶け出すように少しずつ活動を再開してゆく。
意味をなんとなく理解したころには、心臓の動きはどくどくとこれ以上ないくらいに脈打って。
溢れかえる期待と押さえつけていた感情が暴れだす。
「愛してる」
もう一度、今度は目を見つられて紡がれた言葉。
ああ、もう。これ以上抑えられない。
「・・・・それなら」
どうしてこんなに卑屈なんだろう。
それはボクが一番わかっていること。それでも。
ボクは男で、そして君も。
君はボクのような欠陥品じゃない。
あり得ないのだ、対等な立場になることなど。
ボクと君とはすべてが逆で、すべてが受け入れられない位置にいるはずなのに。
それなのに、君の瞳を見ていると、錯覚してしまいそうになる。

「キスしてよ」

証拠をちょうだい。何よりも確かで、ボクを裏切らないための。
すべての言葉の不信感を取り払えるくらい、ボクを捕らえてよ。
そんな風に頭の中で繰り返すボクがいる。
愕然とした。
なんだ。結局はボクは安心したいだけじゃないか。屁理屈をこねて卑屈になってそれでも求めるのは最初から決まっていて。
なんて馬鹿馬鹿しいのだろう。

君が目を閉じてゆっくりとボクに口付ける。


こうなることは、分かりきっていたのに。
涙が、止まらない。









なんで私の書く葵はいつも電波なんだろうなぁっていう、ね。
雰囲気のあるプラトニックな話に憧れます。。




















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