セックス・アンドロイド
無理矢理に髪を掴まれて頭皮がぎりぎりと悲鳴を上げる。
そのまま力任せに床に叩きつけられて、一瞬視界が真っ白に弾けた。
痛みはすでに全身を侵食していて、今更それが辛いとも感じない。ただ床に醜く広がった自らの血の跡が不愉快だった。
「・・・っう、」
今鏡を見たら、僕はいまどんな顔をしているのだろう。想像するのも忌々しい。
苦痛だけならおそらくいくらでも耐えられる。
けれど、感覚など痛みにとっくに麻痺したはずなのに、その一点だけはまるで無関係に敏感になることだけが辛かった。
どうして、そこだけは自分の体ではないみたいに言うことを聞かないくせに、確実に全身の感覚を支配している。
つぷりと指の差し入れられる不快感には、もう慣れてしまった。
「うう・・・ん、っ」
回を重ねるごとに感じる熱は熱く深くなって身を抉る。
片腕で床に顔を押しつけられたまま、これ以上ない恥辱に赤面することの無意味さも抵抗することの愚かさも知ってしまった。
ずきずきと全身の傷が痛む、それよりもわずかに勝る快楽が背筋を伝う。
ただ今を耐えるしかないのだと悟ってからは、与えられる感覚に無力に流されるだけの己の浅ましさそれのみに嫌悪する。
「ふっ、う、・・・んんっ」
こんなの、苦痛だけに喘いでいたほうがよっぽどましだ。
それでも、これは奴の誤算なんだ。
その事実だけがまだ僕に正気を保たせている。
「ぃ、あ、ああっ!」
無理矢理に拡げられ掻き回され、そのたびに吐き気がするほどの感覚に侵される。
僕の意識も感情も存在意義を見いだせないほど好き勝手な律動で翻弄されて、やがて奴のヘドロを受け止める。
そしてそのたびに僕自身さえも僕を汚している惨めな事実を知る。
最初こそ泣きもしたし、絶望感にうち震えて奴を自身を呪いもした。
けれどいつしか、そんなことは総じて無意味なのだと気がついた。
僕が僕であることがその証明。
僕はただのセクサロイドじゃない。
相変わらず無言のまま奴は、ガーランドは僕を嬲る。
僕はそのたびにされるがままに蹂躙されて床に転がった。
嫌だともやめろとも言わないで、ただ与えられる苦痛も快楽も受け止める。やがて時は過ぎる。
そうして、ガーランドは小さく舌打ちしてこの部屋から出て行った。
打ちつけられた頭が痛む。口の中が切れて鉄の味がする。・・・・・・下肢が、だるい。
どろりと腿を伝う白濁の感覚が気持ち悪いけれど、しばらく体を動かす気にもなれない。
こんなことなら、最初から雌の体にでもしてくれていたらよかったのに。
なんとなくそう考えて、けれど僕は僕が僕であったことが幸いなのだと実感する。
それに気づいたのはいつだったろう、奴が僕を抱きながら忌々しげに眉を歪めたあの顔を見てからだ。
そうだ、僕はきっと幸福なのだ。
皮肉な運命はいつか奴を撃ち落とすだろう。
ガーランドは僕のことを愛している。
その事実に僕が気付いたことが、おそらく奴の最大の失態だ。
きっとこのままで終わらせはしない。
いつか。
いつか、僕はこの運命に報復してみせる。