過去と……


ブルメシア。
 青の王都、と冠されたその国に、1人の女竜騎士がいた。
 彼女の名はフライヤ。
 彼女は今日の仕事を終え、兵舎の自分の部屋に引き上げる所であった。
 扉の前に立ち、ノックする。
「開けても良いか?」
 どうぞ、と答える声を待ち、彼女は扉を開け、中に入った。
「お帰りフライヤ! 今日もお疲れ様!!」
 部屋の中でベッドに腰掛けていたのはタケミのオリキャラ・ネイル(爪だ!!)であった。
「で……今日は何か進展、あった?」
 帰ってきていきなり、だ。狼狽しつつもやや脱力するフライヤ。
 兵とはいえ、ネイルもフライヤもまだ15歳の女の子。そういう話に興味が無い訳がない。
「な……何を言っておる! 私とフラットレイ様とは……」
 何でもないのじゃ! と否定するフライヤに、しかしネイルはくすくす笑って指摘した。
「好きでもない人の話しててそんなに真っ赤になる訳無いじゃないの!」
「……っ」
 これにはフライヤも言葉を返せなかった。
 それもそうだ。実際、好きな相手なのだから。
 赤面硬直してしまったフライヤに助け舟を出すかのように、ネイルは言った。
「……にしてもさー、フライヤのその言葉遣い、もう完璧に板に付いちゃったわね」
「…そうじゃな。最近は以前のように変換できなくて言葉に詰まることも無くなったしの……」
 フライヤのこの口調は、彼女が竜騎士になったその日に、『なめられたら最後よ!』と……《女の子》に見られないようにと改めたものだ。
 時間軸としてはここで引用するのは正しくないが、……ガーネットが王女として見られないようにするために言葉遣いを変えたのと同じだ。
 ネイルはその日からずっとフライヤと同室だった。
 今の所女竜騎士はフライヤ以外いない。そして女兵は(ブルメシアでは)ネイル以外いない。……そういう必然的な問題からである。
 別に門戸が閉ざされているという訳ではない。ただ単純に、兵士や竜騎士になろうとする女性がいなかっただけだ。
 はるか昔からの伝統がひとつ。
 娘達は、恋人の武器に飾るもの・恋人自身を飾るもの・自分の身に付けるもの……と、3つ1セットでアクセサリーを作る。
 かなり手の込んだ物で、外からの評価も、かなり高い。
 特に器用な人ならば、1つ(1セットではない!)作って売れば1年、細々とであれば2年は暮らせると言われるほど、高値になる。
 セットで作れば勿論値段は跳ね上がる。
 比較的、細かい作業は苦手という者の作品でも、2、3ヶ月働かずに暮らすだけの収入は堅い。
 故に、この国の多くの女性はそっちの仕事に就くか、これまた伝統の、踊り子になるかのどちらかだった。
 ……いや、訂正しよう。
 フライヤとネイルを除いた全ての女性と、一部の男性は…だ。
 今の所は。


 燃えさかる炎。
 沸き起こる蛮声と悲鳴。
 自らにも、凶刃が向けられ……。
 短い盗賊刀に炎の照り返しが煌めく。
 その時……確かに少女は死を覚悟した――――。


 勢い良くフライヤは起き上がった。
 それはもう、貧血の人ならしばらく再起不能になるほどに。
 冷や汗が、身体を包むパジャマをじっとりと湿らせている。
 鼓動もいつもの倍程度には速い。
 すぐ横のベッドで眠るネイルを見やり、起こさぬよう、ベッドを軋ませぬようにそこから降り、窓にかかったカーテンを少しだけ開けると満月のかかった空を見上げた。
 まだ、夜明けまでには随分と時間があるようじゃな、と呟き、ざっとシャワーを浴びて夜気に当たろうと外へ出た。
 冷たい空気が身に心地よい。
 1日中雨が降っていると思われがちなブルメシアだが、夜は天空を星が埋め尽くす事の方が多い。
 フライヤの目が、塔の上に人影を見いだした。
(あれは……フラットレイ様!?)

 

『幻想だ』
 自邸が襲われて約半年後。
 自分を救ってくれた相手に思いを告げた時の返事。
 フライヤ=クレセント13歳の秋。
 そして14になり、半ば形骸化していた職業選択の儀式の時。
 彼女ははっきりと自分の意志を表した。
『竜騎士になりたい』と。
 男の子は竜騎士か兵士になり、
 女の子は細工士か踊り子になるというのが半ば《当たり前》になっていた世間に波紋を与えたこの事件だったが……その結果、彼女はこうしてここにいる。
 ――――――その会の儀式の時には、もう1人いた《変わり者》。
 それが、ネイル。
『本当は竜騎士になりたかったんだけど……あたしは風読みが上手く出来ないから』
 と、兵士の道を選んだ。
 知らされていなかったらしい両親は慌てていたが、少女はその主張を貫いた。
 フライヤには既に、慌ててくれる両親も家族も、この世には存在しなかったが……。


 何故ここまでフルムービーで思い出してしまったのだろうかと、フライヤは零れ落ちそうになっていた涙を慌てて拭った。
 ――塔の上の人影が動いた。


『お慕い申しております…フラットレイ様……』
 このような場合どうすれば良いのかなど、誰も教えてはくれなかった。
 そして、つい口走ってしまった一言。
「幻想だ」
 走り去る彼女の後姿が見えなくなってしまってからようやく気付いた自分の心。
 しかし、ひどい事を言ってしまったという自覚のある身でやっぱり好きだなどと言うのはあまりに気が引けた。
 そしてその思いを振り切るかのように竜騎士としての腕を磨く事に専念したが。
 彼女は、竜騎士の道を選んだ。
 否が応にも目に入ってくる彼女の姿。
 筋が良く見る見るうちに腕を上げ、自分に近付いてくる彼女。
 自分の中での存在はすでにかなり大きくなっている。……今度はちゃんと解る。
 そして、今、また。
 彼女は自分の眼前にいる。
 無防備な姿を晒し、潤んだ瞳をして。


「フラットレイ様……」
 塔の天辺から飛び降り、自分を真っ直ぐに見つめる瞳の持ち主の名を、フライヤは半ば無意識に唇にのせた。
 フラットレイは無言で、ただ彼女を抱き締めた。


「そうそう、あたし今夜、ちょっと兵舎抜け出して実家に顔出してくるから。……明日は非番だし、昼近くまで帰らないかもしれない」
 突然と言えば余りに突然なネイルの言葉に、しかし昨日の今日なフライヤは狼狽した。
「どっどっどうしたのじゃそう突然……」
「だって……もう秋も深まってきたし、夜は外は寒いでしょ?」
 全てを見透かしているかのようなネイルの意味深長な言葉。
 フライヤは隠す事を諦めた。
 しかし。
「シーツの替えは用意しといた方がいいわよ♪」
 という台詞にはつい叫んだ。
「何を言っておるのじゃネイル! 私とフラットレイ様はそんな……」
 あら〜v と笑ってネイルが問う。
「そんな……何?(笑)」
「これ以上言ったら18禁じゃ! おぬしは削除されたいのか!?」
 くすりと笑って。
「冗談よフライヤ。さ、早くしないと遅れちゃうわ。……それからフライヤ、今の声、兵舎全体に響き渡ってると思うわよv」
 そして程なく、ネイルは行ってしまった。
 今日は非番のフライヤは……ああは言ったものの、つい予備のシーツを確認してしまった。


 十六夜の月が天空高くに掲げられる頃。
「2年間……辛い思いをさせてすまなかった……」
 もう少し後にもっと辛い思いをさせる事になるのを知る由も無く、フラットレイは背に回した腕に力を込めた。
「いいえ……過ぎた事。今はただ……」
 お慕い申しております、と、幾分震える声で答えたフライヤに、フラットレイは優しく口付けた……。





マイラヴァ竹観より頂いちゃいましたv
オリキャラのネイルが妙にツボですv
あぁもうフライヤ可愛いvv




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