十六夜に手向ける


十六夜の月が天空高くに掲げられる頃。
「2年間……辛い思いをさせてすまなかった……」
 もう少し後にもっと辛い思いをさせる事になるのを知る由も無く、フラットレイは背に回した腕に力を込めた。
「いいえ……過ぎた事。今はただ……」
 お慕い申しております、と、幾分震える声で答えたフライヤに、フラットレイは優しく口付けた……。 
「愛している」 という言葉を添えるのを忘れずに。
 フライヤの白磁のような肌が、月明かりのみの薄暗がりの中薄紅色に染まっている。
 そして次に。
 緊張のあまり2人は固まってしまった。
 開けっ放しの窓から吹き込む、秋といえども晩秋の冷気で部屋がすっかり冷えてしまう頃、フラットレイが口を開いた。
「……窓を閉めよう」
 それを合図とするように、フライヤが台所に立った。
「お、お茶をいれます。すっかり冷えてしまいましたから……」
 しかしフラットレイはそれを押しとどめた。
「茶など後で良い」
 一瞬、きょとんとしたフライヤを抱き締める。
「フ…フラットレイ様!?」
 真っ赤になるフライヤ。
「…お前は綺麗だ、フライヤ……」
 そう言いそっと頬に触れる。
 優しく髪を撫でる。
 その感触は心地よくって……。
 ややフライヤが緊張を解いたのを見て取り、フラットレイは一気に彼女を抱き上げた。
「ひぁっ…!」
 そしてフラットレイはフライヤを寝台の上におろした。
 否が応にも速くなる脈拍。――自分の鼓動は相手に聞こえているのではないかという程に、強くもある。
「……やめるなら、今が最後だ」
 これ以上行くと自分を抑えられなくなる、というフラットレイに、フライヤは何か言葉を返そうとするのだが。声を出す事が出来ない。
 ただ……フラットレイの目を見つめていた。
 それをOKという意味にとったフラットレイはゆるゆると彼女の服のボタンを外しはじめた。
「……!!」
 流石にこれには反応し、その手を押しとどめようとする。が、手をそっと握り、深いキスをされ……全身から力が抜け、なすがまま状態になってしまった。

 ひとつ、ひとつとボタンが外されるのに呼応し、少しずつ露になってゆく、フライヤの透けるように白い素肌。頬を桜色に染めわずかに震える彼女はあまりに儚げで、いっそ壊してしまいたいという衝動をフラットレイは必死に抑えていた。
 彼の指もまた、震えていた。じれったいほどにゆっくりとボタンが外されているのはその為である。

 ――そして、全ての鍵が外される。
 先程の事で少し冷えてしまっているフライヤの身体をフラットレイは包む込むように抱き締めた。
「あっ……の……」
 辛うじて絞り出したほぼ裏返った状態の声。
「な、何か……隠…っ…」
 十六夜の光は彼女が羞恥で真っ赤になってしまっているのを知るのは充分すぎるほどに明るかった。
「……綺麗だよフライヤ」
 シーツなんかで隠すには勿体無いほどに。
 そう答えながらもフラットレイは、さすがに酷と感じたのか1枚シーツを引っ張りあげた。彼女の身体にふわりと乗せて、横から自分も滑り込む。
 素肌の触れ合う感触が心地よい。
 普段の訓練で傷ついたりぶつけたりしている割に……否。それを計算に入れずとも、彼女の肌はあまりに滑らかだった。
 つい、またきつく彼女を抱き締める。――束の間、フライヤの震えがおさまる……。
 もう1度キスをし、彼女の、まだ誰1人として踏み込んだ事のない白雪の聖域にそっと触れてみる。
「……!!」
 反射的に腰を引くフライヤ。勢い余ってベッドから落っこちそうになるのを支え、そっと囁いた。
「大丈夫……怖がらないで」
「し…しかし……!」
 フラットレイは半ば強引にフライヤを引き寄せ、抱き締め、深い深いキスをした。
「ふ…ぁっ……」
 すっかり力の抜けきったフライヤをベッドの真ん中に寝せると、フラットレイは体勢を変えた。
 右膝を脚の間に割りいれると、そこと右肘で自分の体重を支えるようにした。
 左手でそっと頬をなぞり、そのままゆっくり下へ行く。頬から首筋へ。首筋から胸へ……。
 右手では髪の毛を撫でる。



「ぁ…んっ……」
 くっ、と背をそらすフライヤ。
 呼吸も随分乱れている。
 目にいっぱいに涙をため、左手でシーツを握り締めている。
(そろそろ大丈夫か?)
 フラットレイは次の段階に移る決心をした。
 少し、身を起こす。
 聖域の入り口の様子を確かめ……できるだけゆっくりとそこに侵入した。
「……っ…痛……」
 自らを貫く痛みに現実へ引き戻されるフライヤ。
 痛みから逃れようと、足をばたつかせる彼女をそっと押しとどめ。
「…痛いのはすぐ終わるから……」
 一気に奥まで侵入してしまいたい気持ちを抑えて彼女のまぶたに口付けた。
 やや落ちついたのを見計らい、聖域のもう少し奥まで侵入してみた。
「んっ……」
 もう最初ほどの痛みは無いと見える。
 ぎゅっと閉じた目からは涙が零れてはいるが、どことなく幸せそうな雰囲気が漂っている。
 それを唇で拭い、フラットレイは両手で彼女の頭を抱え込むようにするとまた、深いキス。
 彼の唇が離れると彼女はうっすらと目を開けた。やはり潤んでいる。
「わ…たし……」
 フラットレイは無言で彼女の髪の毛を撫でた。
「ふ……っ」
 息とも声とも付かぬ音を発し、フライヤは今度は軽く目を閉じた。
 そしてフラットレイは彼女のその聖域の最奥まで侵入した。
「……愛している、フライヤ…………」
 その声が意識の飛びかかっていたフライヤに聞こえたかどうかは定かではないが、彼の愛は充分、彼女に伝わっていた……。
 彼女もまた、ぎゅっとフラットレイにしがみつき、彼を受け入れ、惜しみない愛を彼に注いでいた。
 そして紡がれるリズムと交じり合う鼓動。
 どこからどこまでが自分で、どこからどこまでが相手なのかが解らなくなる、不思議な感覚。
 痺れるように広がる、何かの流れ。
 そして…………。



 静かな音。
 風の音にも似たそれは、雨が地面と出会う音。
 外のその静かなメロディーとは打って変わって、兵舎の中・フライヤの部屋ではちょっとした騒動(?) が起きていた。
「絶対こちらを見ないで下さいフラットレイ様!」
 真っ赤になって慌てて服かき集めるフライヤ。
 朝の光は容赦なく彼女の身体を浮かび上がらせる。
「痛っ……」
 足元の服を取ろうとしたがしかし下半身――初めて他者を受け入れた彼女のその聖域を中心とした部分は彼女自身から自由な動きを奪った。
 到底今日は仕事に出られそうも無い。
 恨めしげな視線を、律儀に後ろを向いたままのフラットレイに注ぐ。…勿論彼は気付いていないが。
「……フライヤ〜」
 何故か猫なで声のフラットレイ。
「な、何ですか?」
「そっちを見ても良いか?」
「いくらフラットレイ様でもそれだけは譲れませぬ!!」
 つい力いっぱい叫び、直後……。
「痛たたた……」
 自分の声が響いた。
「だ、大丈夫かフライヤ?」
 反射的にフライヤのほうを向いて。
 ――――そして。
 兵舎にはフライヤの絶叫とフラットレイの「今更じゃないか!」 という言葉が響き渡った。
 結局その日の仕事を休み、部屋で休んでいたフライヤは昼過ぎに帰ってきたネイルに散々からかわれる事となったのだった。
 ちなみにこの2人の関係がブルメシア中に広まったというのは……語らずとも良いだろう。

             ちゃんちゃん♪





梅さんからの月シリーズ第2段
フライヤが可愛いvv健気vvv
ありがとうございます!




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