Memento mori



彼はもうすぐ死ぬのだろう。 

先ほど摘んできた花の束を持って部屋に入る。 
以前の彼ならそれだけでこちらを振り向いたのに、今日は背を向けてソファに沈んだままだ。 
その傍をわざとを横切って窓際へと部屋のなかを歩く。そこで始めて彼は俺を見た。 
最近はいつもそうだ。最初はただ単に偶然か疲れかだと思っていたが、いつのまにか違和感がじくじくと胸の中で広がっていた。 
窓際に置かれた花瓶の、すこし花びらが萎れはじめた花を今摘んだばかりの花を差し替える。 
こんな、他愛も無い造作の中で花瓶は新たに彩を得る。 
萎れかけた花を掴んだままソファのほうに振り向けば、穏やかな笑みを浮かべた彼と目が合った。 
「赤い、ね」 
「お前のリクエストだろ」 
「うん、とても赤い」 
綺麗だね、とおそらくは窓の外を眺めて言った。 
その口で、かつては儚い命に興味など無いと言っていたのだと、彼は自覚しているのだろうか。 
ふと手に持ったままの花に視線を落として、なんとなくやりきれない気分になる。 
花瓶の水さえ絶たれてしまっては、もう枯れるしかない。実際花びらの端にはもうその未来の姿が垣間見えているじゃないか。 
きっと彼も、一ヶ月前部屋に花を絶やしたくないと言ったときに分かっていたのだろう。 
そして俺はそれが単なる気まぐれじゃなかったのだとあの時気づくべきだった。 
すべてがゆっくりと進行していた。 
それは本当に些細なことばかりで、仮にそれが彼のことでなかったのなら俺はその日が来るまでずっと気づかずにいたのだと思う。 
突然訪れる停止は、果たして今日か明日か、それともあと数週間か数ヶ月はあるのだろうか。 
先が読めない不安も失う恐怖も、気づかなければ幸せだったのに、気づかされてしまった。 
彼も同じなのだろう。口には出さずに求めた救いに、俺は応えられているのだろうか。 
「なぁ、あとでちょっと出掛けないか?」 
すごく良い天気なんだ、とちょうど彼が見つめた空を指差した。 
この部屋は意識で埋め尽くされている。せめて、あと僅かだとしてもここから彼を連れ出したかった。 
「焼けるから嫌だよ」 
「少しぐらいいいだろ、ちょっとは日に当たんないと体に毒だぞ」 
「・・・・・今は面倒だな、眠いんだ。・・・あとで、夜になったら少しなら付き合ってあげてもいいけど」 
「まったく。じゃあ日が落ちたら、な」 
本当に眠そうにあくびをして見せた彼に、嫌な予感が付きまとう。 
最近特に眠そうにしていることが多くなった。 
あまり感情を表に出さなくなった。 
食事の量が減った。 
ぎゅうと何処かが締め付けられて、俺は無意識に握った拳に力を込めた。 
さわ、と花が揺れる。花びらがひとひら落ちた。 
「それじゃあ、僕は夜まで少し眠るから」 
そう言ってソファに横たわる彼を見て、俺は部屋を出た。 
萎れかけた花は今日も家の裏の土に無造作に撒かれることになるのだろう。もはやあそこは花の墓場になってしまった。 
積み上げられた花の死骸はだんだんと下のほうから色彩を失ってゆく。 
美しかった姿は原型も無くなって、土に還る。 
なんて残酷なのだろう。こんなことを意識させてしまうこの花も、そして彼も。 

いつかは俺も死ぬのだろう。 
しかしその時まで、どうして彼の居ない世界に耐えられるだろうか。 
永遠という言葉を信じられたら、どんなに良かっただろう。なんて、柄にも無いことを考えた。









メメント・モリ=死を想え、ってやつです。
まぁありがちな題材なんですが。この二人は特にそういう感じだよなァと。
正直ジタンもすぐに死ぬんじゃないかな。←
ガーランドがジタンにだけ長い命を与えているわけないって思った時に書いてみたもの。
結論としては、「だから今を楽しめばいい」ってことです。(実際あんまり楽しんでないけど ね)




















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