まだ、
二の腕を掴む指先に込められた力は、何も気づかないふりをして振り払うには少し強すぎた。
冗談を気取るそぶりで縋り付く、その上目遣いは言葉の割りにずいぶんと必死じゃないか。
どうしたの、と声を掛けようと思ってすぐに止めた。言葉なんてこの場で意味を成すわけが無い。
ただ僕の腕を掴んだまま、次の行動に移せないでいる無様な彼を見下ろしながら、同時に何の対応も出来ない無様な僕に気づく。
臆病なのはどちらも同じなのだろう。
ただ、状況を理解してしまった僕のほうが少しだけ有利で、その分少しだけ臆病だった。
「・・・・・クジャ・・・」
震える声は、それでも確かな響きなのに。
指先から力が抜けてゆく。脈打つ循環は僕の心臓が作り上げたものだろう。
たった一言。
今の僕達に足りないものは、たった一言なのに。
どうして僕から言うことが出来ないのだろう。つまらないプライドがそうさせるんじゃない、僕の不甲斐なさがそうさせている。
認めたくないことほど、頭の片隅で冷静に判断してしまう。
せめて彼がもう少し強引だったら良かったのに。
哀しいほど優しい、そしてそんなところが愛おしい。
なんて虚しいのだろう。
禁忌を犯すことなど、もうとっくの昔に覚悟したはずだったのに。
それでも臆病な僕達は、感情のまま行動するこそなんて出来やしなくて、今日もまた空回るように終わってしまう。
ねぇ、あとどれくらい待てばいいのかな。
ねぇ。
「ジタン、あいしているよ」
僕の言葉は、響きにもならず空虚に消えていった。