恋、意。


 僕が亮の部屋に来ることは、珍しいことではなかった。朝だろうが夜だろうが、何も気にせず僕は好きな時にこの部屋に来ていたし、亮もそれをなんでもないことのように受け入れていた。カードの話をしたりなんとなしにテレビを見たり、お互いがそれぞれ別の雑誌をめくりながら無言で一日を過ごしたこともある。部屋に来る理由などあってもなくても同じで、要は孤島に建つ全寮制のこの学園では、一人部屋で一日を過ごすのはあまりに退屈だったというだけのこと。
 でも、さすがにこういう事態になったことは一度もなかった。いや、本当は今もこの先もあるべきではないのだろう。
 それでも、どういうわけか、僕は今亮の腕を取ってベッドに押さえつけている。
 一時の気の迷いとか、つい冗談でとか、今だったら言い訳はつく。僕の性格なら、単にちょっとした悪戯だよ、と一言言えばなんでもなかったことにできる。
 ぐるぐると思考は少し混乱している。鼓動が早まっている。それでも、僕は冷静を装ってしまった、まっすぐに亮の目を見つめてしまっている。
 そして亮も、僕を真っ直ぐ見据えている。
「今、何と言った?」
 自分の状況なんて気にしていないという風な顔で、そんな風に聞き返さないで。戻れなくなる。
「……僕を抱いてみない?って」
「意味がわからないな」
「嘘。……この状況で、わからないわけないじゃないか」
 理解できないなんていわせない。拒絶なんてさせやしない。釘を打つように、言ってしまった。
 もうどうとでもなれ、とそんな気分で、でもそれを相手に悟られないように。今までの友情が壊れるかもしれないとか、そんなことはきっと頭になかった。それよりも、引くに引けなくなったこの状況を、こうなったらどう有利に持っていこうかと、そんなことばかり考えていた。
「……吹雪」
 いつもの低い声が、真っ直ぐな目が、僕に刺さる。
 どきりとして、つい今まで必死に込めていた腕の力を一瞬ゆるめてしまった。冷や汗が滲む。
 その瞬間。
 ぐらりと視界が反転した。後頭部と背中に鈍い衝撃が走る。
 一瞬天井が見えた後に、再び亮の顔が視界を占めて、何が起きたのか理解できたときには既に僕は先ほどまでとは逆に、亮に組み敷かれていた。亮の腕を掴んでいたはずの僕の腕は亮の体重を受けて押さえつけられ、まるで動かせる気がしない。そもそも腕力はきっと彼のほうが強いし、その目で縫い付けられている限り、きっと腕をどけられたって僕は動くことができないだろう。
 先ほどまでと同じ、刺すような、全てを見透かすような目が僕を見る。
「抱かれる、ということはこういうことだと、わかって言っているのか?」
「っ……、わかってるよ……!」
 亮が僕に覆い被さっている。視界には亮の顔と、遠くに見える天井。腕は動かせず、体勢を変えることもできない。視線が僕を刺す。軽蔑するでもなく無表情な顔からは、彼の真意がわからない。
 自分から招いた状況だけど、改めて問われると、今まであえて考えることから逃げていた事柄が脳裏をよぎる。
「吹雪」
「なに」
「……震えている」
 誰が、と言おうとして、上手く唇が動かせないことを知った。
 まるで凍えているかのように、言葉が上手く発せない。奥歯が小刻みに震えていた。
 途端に、気づいてしまった。あえて考えないようにして、気づかないようにしていたのに。
 完全に身動きのとれない今の状態では、僕は亮から逃げられない。僕が望んだことのはずなのに、もしも彼が本気で僕のことを、と考えたら、どうしてか、さらに震えが増してきた。
 こわい。
「……亮」
 本当は、怖いと思っている。不安に思っている。
 親友の君が、僕の自由を完全に掌握しているこの状況も、もしもこの先に進んだ場合訪れるであろう痛みも、その後の僕らの関係も、君に軽蔑されることも。
 本当はこんなこと避けるべきだった。期待できることなんて何一つないじゃないか。実際、僕は亮の言葉に視線に怯えながら何も言えないでいる。後悔の念が沸いてきた。泣きたい。
 相変わらず無表情なままの視線から逃げるように、唯一自由にできるまぶたをぎゅっと瞑った。
「……まったく」
 感情の読めない声。呆れられたのだろうか。それとも、まさか僕の戯言にしょうがなく付きあってやるという意味だろうか、そんなことあるはずないと思うもののどこかでその可能性を否定できないでいる。閉じた視界では亮の表情はわからなくて、それでも自分から確かめる勇気がなかった。どちらにせよ、意識してしまった恐怖は膨れてゆく。次の亮の言葉を、行動を待つ一瞬がとてつもなく長く感じる。
「無理に自分を誤魔化すな」
 どこか、悲しげに聞こえたのは気のせいだろうか。
 今までとは少しだけ声のトーンが違った気がして、思わず目を開ける。遠ざかる視線と一瞬目が合い、何かを言おうと口を開きかけた僕は、亮が上体を起こして僕の上から退いたのを見た。軽くなった右腕を、咄嗟に彼の腕へと伸ばす。
 ぎしり、と体勢を整えてベッドサイドに腰掛けた彼の袖口付近まで伸ばした僕の指先は、とうとうその腕に触れなかった。力なく空を切って、そのまま再びベッドに沈んだ。左腕は押し付けられた形のまま動かせず、僕は天井をぼんやりと見つめた。
「吹雪」
 いまの状況を必死に頭の中で整理して、一拍置いた後、じわりと視界がぼやけた。
 それは言いようのない感覚で、正直いま僕は何を感じているのか僕にもよく分かっていない。ただ、どこかで安堵している自分がいるのは、紛れもない事実なのだろう。
「……亮……ごめん」
 居た堪れなくなって、腕で顔を覆う。涙を拭う余裕もなくて、ただ袖にじんわりと染みてゆくのに任せた。
 沈黙が、いたい。
「吹雪、あまり俺を、……」
 呆れられた、と軽蔑の言葉を覚悟したけれど、亮はその先に言葉を続けることはしなかった。
 そろそろと腕をどかして亮の方を伺ってみれば、彼は僕に背を向けていて表情は見えない。けれどその背中は、決して拒絶を表しているわけではないという風に、彼にしては珍しく少し丸まっていた。
「亮。……それでも、僕は」
「言うな」
「……亮」
「……すまない」
 それは、何に対しての言葉だったのか。
「シャワーを浴びてくる。お前はその間に部屋に戻れ」
 静かに亮は立ち上がって、僕に背を向けたまま部屋に備え付けのシャワー室のほうへと歩き出した。僕はその様子をただ見つめるだけで何も言えなかった。のろりと上体を起こして、そこが彼のベッドの上だったことを思い出した。
 やはり僕は、行動に移すべきではなかったのだろうか。
 でも、それでも、抑えきれなかった。じくじくと疼く感情を堪えながら妥当な日常に埋もれていくことは、僕の性格上耐えられなかった。当たって砕けろ、とは言うけれど、本当に砕けることなんて一体誰が考えられるというのか。
 ふらふらと彼の部屋を出て自分の部屋へと向かう。
 きっと、それでも明日は昨日と同じ日常の仮面を被ってくれると、僕はどこかで確信していた。







最近あまりにGX熱が沸騰しすぎて、つい。
いやもう吹雪さんは受です。世間では逆とか気にしないよ!
吹雪さんは誘い受がいいなぁ。カイザーはカイザーなのでカイザーです。
とりま吹雪さんは自分から上に乗るだろうな、と。因みにこれどっちも告白とかしてません。(・・・)
多分この後日今度はりょーくんのほうからぶっきー押し倒すんじゃないかな。それで何故か騎乗位とかやったらいいよ。
※亮吹です。(吹雪を大事にしたいけどむらむらしてるカイザー×とりあえず先に進みたいぶっきー)




















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