片想う。
好きだよ、と告げた。
彼は驚いたように目を見開いて、そのあと少し困ったように微笑んで、ありがとう、と言った。
それから、「ごめんね」と。
ずるい、と思った。
そしてそれ以上に俺も。
彼が好きなのは丸藤なのだと知っていて、そしてその事を、彼は気づいている。
ごめんねと言った彼に、それでも、と返した俺は、果たしてどんな表情を望んでいたのだろうか。
「でも、僕は」
微笑みを崩さないまま、彼は言葉を探る。
今この場で無理やりに口付けてみたりしたのなら、彼はその表情を歪ませるだろうか。
「わかってるよ」
わかりたくなんかなかったけれど。
「ごめんね」
繰り返さないで、現実のなかで溺れそうだから。
どうせわかっていたことなんだから、と自分でない誰かに言い聞かせるように心の中でつぶやく。
どうせ彼の一番にはなれない。それなら。
むりやりにでも、ふぶき、を。
「優介」
どきりとする。
いやな汗が首を伝う。
気持ちを読まれているみたいな気がした。
「吹雪」
どうして、一瞬見せた、真っ直ぐな目。
「僕も、好きだよ」
「うん」
「僕は、君と、ずっと友達で居たい」
なんて残酷なことば。
俺は無理やりにでも君を手に入れたいと、願っているのに。
それなのに、恐怖心が邪魔をする。
簡単なことなのに、彼を手に入れることなんて。
彼は俺のことを信用している。これ以上好都合な状況なんて無いじゃないか。
それでも俺はきっと恐れている。
それは決してこの関係を壊すことでも、そして本当に望む未来は一生手に入らないということでもなくて。
「・・・・・・うん」
それなのに、それでも。
彼の言葉に素直に頷いてしまうのは、恐怖心が邪魔をするからで。
彼は真っ直ぐに俺を見据えたあとに、また、少し困ったような、それなのに優雅な、笑みを浮かべる。
俺を信頼している。
そのことが、とても嬉しくて、でも、とても憎らしい。
そのせいで、俺は。
怖いのは、君が悲しむこと。
たったそれだけのことなのに。