秘密の故意。
「ねぇねぇ藤原!聞いてよー」 朝、教室へ向かう廊下で後ろからほとんど体当たりをするように腕に抱きついてきて語りかけてきた吹雪は、何だかいつも以上にテンションが高い。 正直、なんだか今日は嫌な予感がする。あんまり聞きたくないなぁなんて、思っても本人には言えないのだけれど。 「僕さ、思い切って告白したんだよ!」 それに、この吹雪がそんな僕の心中を察するはずも無い。こちらの返事なんか聞きもしない。 「ふうん」 「まぁ亮もどうせ僕のこと好きだろうと思ってたし?実際その通りだったんだけどさー」 まるで昨日見たテレビの話でもするように大げさな手振り付きでぺらぺらと喋りだしたその内容は、本来ならそんなあっさり言うようなものではないと、俺は思うんだけど。 「でも亮ってば妙にお堅いっていうか、まぁそこが良いところでもあるんだけどさ、」 誰が好き好んで親友ふたりの、しかも男同士の恋愛事情なんか聞きたいと思うんだよ、と普通なら言ってしまいたいけれど。言いたくてもいえないオーラが漂っている。 まぁ吹雪だからしょうがない、とつい思ってしまうのは俺も毒されてきているのだろうか。 「でも最終的にはちゃんと上手くいったよ!やっぱり恋の魔術師たる僕が失敗なんてあってはならないっていうかさ」 別に俺に偏見はない。俺は吹雪も丸藤もかけがえのない友人だと思っているし、その二人が幸せにやっているならそれは良いことなのだろう。 実際、逆に気まずい空気にされるよりは、こうやってにこにこと惚気られるほうが幾分かましだ。 「それでさー、って藤原聞いてる!?」 「ああ、聞いてるよ。上手くいったんだろ?おめでとう」 それに、変に隠されるのも気づいてしまったあと良い気はしないだろうし、こうして何の躊躇いもなく話してくれることは嬉しくもある。 「ふふ、ありがと。あ、これからも3人でいるときはいつも通りだからね、安心してよ!」 3人のときは、か。じゃあ2人のときはどうなんだろう、なんてつい下世話なことを考えそうになるこの状況も、複雑な気分ではあるけれど。 「でも正直僕も不安だったんだよ。・・・あ、これ亮には絶対言わないでね」 「ふうん。・・・でも結果的にはよかったんだろ?」 「まぁ、ね」 「じゃあ良かったじゃないか。・・・その、キスとかしたのか?」 って、俺は何を聞いているんだ。 「え?あー・・・あっ!忘れてた!」 えっ。 「忘れてたって・・・じゃあ返事聞いただけとか?」 真っ先に行動を起こしそうな吹雪なのに。 「いや、その先はしたんだけど・・・ついキスするの忘れてたや。あー僕としたことが!気付いたら悔しくなってきた!」 今さらっとあんまり聞きたくない事実を聞いた気がするが、まぁいいや。 それにしても吹雪も案外抜けてるんだなぁ、なんて。 そういえば吹雪が丸藤のことを好きだというのは前からちょくちょく聞かされてきたけれど、丸藤からはその手の話は全く聞いたことがなかったな。 あの丸藤も吹雪のこと好きだったなんて、少し意外だ。けど、何となく分かる気もする。 「うーなんかすっごい損した気分になってきた・・・もう一回やり直したいなぁ」 「やり直すって・・・」 「こうなったら今度はとことんロマンチックに決めてやる!」 「うん、まぁ頑張れ」 今度は別に報告しなくていいからな。 「あっ、でも今日の放課後は一緒に購買行く約束だったよね」 「ああ、そういえば。新しいカードパックが出るんだっけ」 「そうだよ、一緒に買いに行こうって言ってたじゃないか。僕授業終わったら迎えに行くから、それまでちゃんと待っててよ?」 「ああ」 返事をしてから、そういえば今日最後の授業は丸藤と同じだったことを思い出した。ということは、きっと丸藤も一緒になって結局3人で購買に行くことになるのだろう。 どうせ吹雪のことだから、今日俺に話した内容だって丸藤に言うだろうし、放課後になって丸藤が俺にどんな反応をするのか、何となく想像して少し楽しみになった。 吹雪が変わらないといってくれた3人の関係は、きっとこの先もずっと続いていく。 にこにこと次の話題に切り替えてまた喋りだす吹雪を見て、ついそんなことを考えた。ああ、日常だ、と思う。 確かな予感。俺にはそれがとても嬉しく思えた。
三天才すきすき。
一応これ参加させていただいたJOIN受アンソロの「未必の恋」とリンクしてるっていうか
後日談的なあれなんですが、まぁアンソロの要約みたいな話です。
アンソロ読んでない人向けの「恋、故意」の続きというか。なんかそんな感じです。
あ、因みにこのサイトの藤原は2種類いるです。
吹雪に横恋慕(そして失恋後ダークネス)、と
あくまで吹雪とはお友達のナルシストワカメ(アニメ四期OPのアレ)。で。
後者わかめは多分オネストにツンデレなんじゃないかな。
|