confusion
意気地無し。
なんて、心の中で毒づいてみる。
部屋に入ってきたものの、扉の前で固まっているらしいジタン。
一体いつまでそうやって尻尾だけそわそわと動かしている気だろうか。肝心の足は動かないまま。
背を向けているからちゃんと見えてるわけじゃないけど、その空気は手に取るように分かる。表情も安易に想像がついた。
まったく、自分の部屋に僕が居たからってそんなに動揺することでもないだろうに。
「な、なんでお前が居るんだよ・・・」
固まったまま、搾り出すように紡がれた言葉は素っ気無い。それでも、声は少しだけ震えていた。
全く、白々しい。
本当は分かっているくせに。・・・期待しているくせに。
「何でって。いいじゃない、一緒に寝ようよ」
横になったまま寝返りを打ってジタンの方に向き直る。
そのついでに、わざとシーツの隙間から脚を見せてやった。動作はあくまで自然に、媚びたいわけじゃない。
ほら、分かりやすく動揺してる。視線が泳いでるよ。
「何言ってんだよ・・・一人で寝ろよ。子供じゃないんだから」
やっと一歩進んで、僕の方を見ずに言ってくる。
子供じゃないんだから。その言葉はそっくり返してやりたい。
わざわざ、僕の方からこうして誘ってあげてるのに。
「僕を追い出すの?」
それが君にできるの?
「そ、そんな言い方されても・・・」
語尾が小さくなって、下を向いて。
もう少し。
少し体を起こした。シーツが肩から滑り落ちて背中で引っかかった。
何も纏わないでこうしている意味、分かってるんでしょ?
「ジタン、はやくおいでよ」
ねぇ、いつまで待たせるの?
ずっと待ってるのに。
ずっと。
「・・・っ」
ホラ、顔が赤い。
僕のコトが好きなくせに。
何を躊躇うの?
「ジタン」
触れて。
愛して。
切なく名前を呼ぶ意味も、こんなにも無防備な姿を晒す意味も、知っているくせに。
「・・・・本当に」
不安そうな顔。怯えた小動物みたい。
小さな声。緊張感。尻尾がぎこちなく揺れた。
「本当に、いいのか・・・?」
弱くて強い瞳。
その視線を、僕がどれくらい欲してると思ってるの。
伝わるのは君の優しさ。
本当に甘っちょろいんだね。こんな時まで。
「僕が、単なる気まぐれでこうしているとでも思っているのかい?」
僕はそんな低いプライドを持った覚えはないよ。
目で訴える。
見縊らないで。
「好きだよ」
微笑む。
「・・・愛してる」
のばされた手を、そっと受け止めた。